江戸しぐさの中でも代表的な往来しぐさ
雨といえばなくてはならないのが「傘」です。ひと昔前は、細い道で人とすれ違うとき、人々は、さりげなく人に傘が当たらないようにしたものです。ところが最近はというと、人がいようがいまいがお構いなしで、中には傘を人の体にあてたり、水しぶきまで上げて派手に通り過ぎていく人が何と多いことでしょう。 江戸しぐさには、「傘かしげ」というものがあります。
これは江戸しぐさの中でも代表的な往来しぐさと言われています。雨の日、人と人がすれ違う時、お互いに人のいない方に傘をかしげたりすぼめたりして、相手に雨水や傘が当たらないようにする気遣いのしぐさです。
現代では、気遣いや思いやりといった本来なら人として当然の心得が全くといっていいほど人々の心にないように思います。それだけに雨の日に狭い路地を通るときなど、自分と相手が同じ思いでいるという気遣いの「気配り」を感じたとき、心にうれしさがしみわたるような気がします。
現在の東京も決して道が広いとはいえませんが、江戸でもそれは同じことでした。江戸の町は通り往来を少し入ると細い路地が網の目のように広がっていて、そこに人口が密集していたそうですから、天気の良い日はもとより雨の日などは気遣いなくして歩くことはできなかったのでしょう。 そんな中で生まれたのが「傘かしげ」なのではないでしょうか。
このしぐさが生まれた背景にはもう一つ江戸時代ならではの理由があります。それは江戸時代の傘は現在と違って紙張りだったため粗雑に扱うとすぐに破れてしまうので相手の傘を傷めてはいけないという江戸の人々の気遣いがあったのです。
このようなことを知るにつけ、現代に生きる私たちは物に溢れ、何一つ不自由なく暮らせ、何かを失くしたり落としたり、壊してしまっても簡単に代わりのものを手に入れることができる恵まれた環境にいるわけですが、それだけに「物への愛着心」や「人への思いやり」がなくなっているように思います。
その失われた「こころ」を取り戻すには先人たちの話に耳を傾け、その素晴らしい「知恵」や見習うべき「しぐさ」を実際に自分自身がやってみることが一番の近道なのではないでしょうか。憂鬱なときも人々の心得ひとつで気持ちの良いものにできるのではないでしょうか。