その昔、江戸では、「世辞が言えたら一人前」と言われていたといいます。しかし、ここで言う「世辞」は、いまで言う、「おべっか」や「人にへつらうための世辞」ではありません。
 人に会った時、挨拶の次に言うべき、「ご機嫌伺いの言葉」を指します。例えば、「こんにちは」や「こんばんは」のあとにいう、「近頃、だいぶ涼しくなってまいりましたね」のような言葉です。
人間関係をスムーズに
 このような「世辞」は、人間関係をスムーズにするための外交辞令だったのです。特に江戸のようにさまざまな所から人々が出てきて生活するような大都市では、欠かせない潤滑油だったのでしょう。
 江戸時代、寺子屋では、9歳前後までに「世辞」が言えるように躾たといいます。今の9歳の子供に、もし、前述のような一言をいわれたら、少し、違和感を覚えるかもしれませんが、当時の9歳といえば、江戸商人の卵のようなもの。大人と対等に挨拶ぐらいできなくては話にもならなかったのかもしれません。
 さて、現代では人と人とのコミュニケーションは十分にとれているでしょうか?仕事や私生活でメールでのやりとりが多くなり、人と人との温もりのある関係が希薄になってきていることは否めません。
 メールでのやり取りも、用件のみが無機質に述べられていることも少なくありません。それはそれでいいのかもしれませんが、私たちはロボットではありません。血の通った生身の人間です。
 語りかけた側が人間らしい温もりのある表現を使ったのなら、やはり返事をする側も、人間らしく対応をするべきではないでしょうか。どちらか片方のみが心を遣って語りかけても、もう片方がそっけない反応をしたら、それは一方通行です。
 これだけ進んだ現代社会に身を置きながら、たった数秒にしか過ぎないコミュニケーションもまともに取れないようでは、一人前の大人とは言えないでしょう。それこそ、江戸時代の「九歳の大人」に笑われてしまいます。
 そのようなことにならないためにも、私たちは、本当の意味で格好のいい大人になれるよう日々努力したいものです。